上下論争 ―side:エドワード・エルリック―

はっきり言わせて貰う。
オレは下だけは絶対にお断りだ。


決戦の日が来た。
場所は大佐の家。
ホテルと言う案もあったんだけど、中尉とアルに止められちまった。
他のヤツが迷惑するだろ、ってアルに小言言われちまうし…
こんなことになったのには色々と事情があったんだ。
数ヶ月前、オレが長い間思いを寄せてたロイ・マスタング大佐とやっと恋人となれた。
やっとって言うのは色んな苦労があったってことで…
アルや中尉たちにはたくさん助けられた。
それもこれも、あのバカ大佐が人の事をおちょくって…
いや、いい。
あれこれ言った所であの人の天然振りが治るわけじゃねーし。
それとも何か。あれは全部あのバカ大佐の策略だったとか?
いや、それは無いな。普段は大佐とか言ってきっちりしてるくせに変な所で抜けてるんだ。
うん、とにかく喧嘩とか厄介なことが無い訳じゃなかったけど、それなりに付き合いは進んでたんだ。
一つの事柄を除いては…
それが何かって言うと、どちらが上か下か。
オレも大佐も下はご免だって言い合って、一向に決着が付かない。…言い合いだけじゃなかったけどさ。
とにかく、この問題にけりをつけようって言うわけで…
オレ達はアルや中尉たちの助言で、今日大佐ん家で最終決戦ってことになったわけだ。


先にシャワーを浴びて、オレは寝室のベッドで暇を持て余していた。
あの野郎、いつまでシャワー浴びてるつもりだよ…逃げたんじゃねーだろうな。
イライラしながら更に待つこと数十分。漸くドアが開いて大佐が姿を見せた。
「おせーよ。」
「それはすまなかった。」
1時間近く待たされた不満をぶつけてもさらりとかわして、オレの隣に腰を下ろした。
ま、此処でそれを言い争っても肝心の本題に入れないで終わりかねない。
なので、オレもそれ以上は文句を言わなかった。
今回の決戦のルールは錬金術を使わないこと。
これを言い出したのは確か少尉だった。
片付けに呼び出されるのはもう懲り懲りだとか何とか…確かに、大佐は毎回少尉を呼びつけて後片付けさせてたっけ。
案外苦労性だよな。
というわけで、今回は少尉の為にきっちりと話し合いで決めなければならないと言うことになってる。
で、いざって言うと考え込んでて中々向こうから口を開かない。
オレはそんなに気が長い方じゃないし、先に口を開いたのはオレだった。
「オレは下、嫌だぜ。」
「私だってお断りだ。」
即答で返ってきた。
今まで揉めてたことだし、大佐が簡単に頷くとは思っていないから予想内の答え。
でも、やっぱり腹は立つし、これじゃあ埒が明かない。
隣から小さく溜め息が聞こえ、
「いいかね…そもそも私と君とでは経験に差がある。こういった行為において、やはり経験のそれなりにある私が上であるべきだろう。」
冗談じゃない。そんな理由納得できるか。
「経験って言ったって女とだろ。だったらオレとあんたについてなら関係ねぇだろ。それにそっちの知識はあちこち旅してるオレの方が詳しいに決まってる。」
俺も即答で返してやる。
オレが思うに、大佐は確かに女性経験は豊富そうだけどこっちの方はまるっきし駄目そう。
大佐に見下ろされてるだけでも屈辱だって言うのに、更に喘がされるなんて屈辱どころの問題じゃない。
なんだかんだ言っても童顔で大佐は下がお似合いだ。
「君は私の喘ぎ声など聞きたいのかね?」
「聞きてぇよ。」
「ふざけるなっ!」
だからオレとしては当然の回答だったんだけど、大佐としては不本意らしい。
思いっきり怒鳴られて、睨まれた。


それから続いたのは、いつも通りの不毛な言い争い。
決着が見えないっつうか、何処までも頑固で段々イライラが募ってくる。
いつもなら既にお互い手が出てるところだ。
それでもオレはギリギリのところで堪えてた。ギリギリの所でな…
膠着状態の中、大佐が深く溜め息をついた。
オレは何となくその瞬間に悟っていた。
伸ばされた手がオレの左手を掴み。
「まあ、こういうことは試した方が早い…」
言いながらオレをベッドへと押し倒そうとしやがった。
このヤロー…
オレの中で何かが切れた。


「……」
「……どうかした?」
にこやかに微笑んで、オレは大佐を見下ろしていた。
そう、オレは押し倒そうとしてきた大佐と即座に体勢を入れ替え、隙をついて練成した枷を大佐の手に嵌めさせてやった。
この温厚なオレを怒らせたんだ。
当然だよな。
「…鋼の。」
「何?」
「やはり、こういうことはちゃんと話し合ってだね――」
大佐が微笑んでいたが、それは引き攣っているのが分かる。
この期に及んでまだ言いやがるか…
「大佐が言ったんじゃん。『こういうことは試した方が早い』ってさ。」
「いや、しかしだね…」
「往生際がわりーよ、ロ・イ?」
「ひっ…」
オレにしてはにこやかに笑ってやったつもりだったけど、大佐は悲鳴みたいに咽喉を鳴らして硬直した。
ま、自業自得だよな。


そういうわけで、その後のことは推して知るべし。


 


エドサイドでした。
こっちの方がロイサイドより後に新しく書いた話。
まあ、どちらから読んでも大丈夫です。
ここまでギャグに走った話って中々書かないので楽しかったです。

あ、意味の分からなかった方は申し訳ありません。(笑)

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(07.07.15〜07.11.20)