暁の契り


――きらきら、煌めく海

――ゆらゆら、揺らめく海

――ざわざわ、ざわめく海



引いては寄せる漣が身を浚い…

幾つもの波濤に襲われ…

いつの間にか沖へ流され…



きっと其処は灘

――後は溺れるだけ。










久しぶりに再会した俺とイザークは、海へドライブに出た。
海辺についた頃には日暮れ時で、二人で海へと沈む太陽を眺めた。
それから、折角だから昇る太陽も見に行こうと言ったのはどちらだったろう。
けれども、今居る場所からでは日の出は綺麗に見ることが出来ないらしいので、日の出を見ることが出来る場所へ移動することになった。
移動の途中で夕食を食べ、イザークの運転で車を走らす。
日付が変わる頃、目的地に到着した。
街から随分離れた場所で文字通り穴場だ。展望台となっているが、そんな大層なものじゃない。浜辺沿いの道の脇に車を数台止める程度に広がった駐車場所があるだけ。
だが、車内からでも星が散りばめられた夜空と暗くうねる海が見えるほどに眺めは良かった。


「日の出まで後5時間以上あるか。」
「そうだな。」
小さく欠伸が漏れた。
移動の間に俺は転寝したが、それでもまだ眠い。
目をこすり、座席を一番後ろまで下げて背凭れを少し後に倒す。
「…寝るなよ。」
ハンドルに両腕を交差して置き、その上に頭を乗せ凭れる様にしたイザークが目を細めて俺を見ていた。
「でも、まだ5時間はあるんだろう?」
「駄目だ。貴様、簡単には起きんだろうが。今寝れば、絶対に日の出を見逃す。」
「そ、それは…」
イザークの言うとおりなので返す言葉がない。
俺は目を逸らし、黒く月明かりを反射する海面を見遣った。
「でも、仮眠取る以外にやることもないし…」
イザークと俺では会話が弾むと言うこともなく、ニュートロンジャマーの影響でラジオ等も聞くことが出来ない。
5時間も暇を持て余すことになる。はっきり言ってそんな中で眠気と戦うのは無理だ。
「いや、あるだろう。」
「え?」
イザークの即答に少し驚き、振り向きかえった。
その俺の唇にイザークの唇が啄むように触れ、手が衣服を乱すように動く。
「っ!?…ちょ、イザークっ!」
覆いかぶさってくるイザークの胸を慌てて突っ張る。
「なんだ。」
思い切り不満そうな口調と眼差しにたじろぎそうになったが、流されれば昨晩の二の舞だ。
大体、何故俺が睨まれなければならないんだ。
「なんだじゃないだろっ。何やってるんだよ!」
叫ぶように言い、突っ張る腕に力を込め、出来るだけイザークから身を離す。
が、離れた分だけイザークが迫り来る上にこの狭い車内に逃げ場などないに等しい。
「車の中でやれること。」
突っぱねていた腕を取られ、怯んだ瞬間に座席の背凭れを最後まで引き倒された。
「ふざけるな!」
座席に寝転がることになった俺に覆いかぶさってくるイザークから逃れようと必死にもがく。だが、手を取られ身動きも取れない体勢に意味はない。
寧ろ喜ばせているような気がする。
実際にイザークの口元には意地悪げな笑みが刻まれていた。
「大体、こんな所でっ…誰か来たらどうするんだよ!」
「大丈夫だ。こんな時間に、こんな場所にやって来る物好きなどいない。」
既に真夜中といって言い時刻に郊外の更に外れにある小さな展望台へ来るものなど確かにいないだろうが…
そういう問題ではない。
言い返そうと口を開いた俺にずいっとイザークの顔が近づく。
「時間も5時間あるからな。」
言うや否や唇を塞がれた。
交わる唇が何度も角度を変えながら、徐々に深まる。丁度口を開いたところだったこともあり、容易に唇を割りイザークの舌が滑り込む。舌先が歯列をゆっくりと辿り、更に奥へ踏み込む。咥内を余す事無く嘗め回され、逃げ惑う舌を絡め取られた。ねっとりと絡み合う舌の熱さと、流し込まれる蜜のように甘い唾液に蕩けてしまいそうだ。
漣の様に押し寄せては引き、引いては押し寄せ、そうして確実に深い場所へ誘われている。
「っ、はぁ…う、んっ…」
唇が離れていく頃にはすっかり俺の身体は弛緩し、抵抗する力など残されていない。観念するしかなかった。
乱れた呼気を繰り返す俺とは対照的にイザークは深く息を吐いたのみ。
上着は剥ぎ取られ、シャツを乱される。イザーク自身も上着を脱ぎ捨てた。
寛げられたシャツがずり落ち、晒された項に口付けで濡れたイザークの唇が触れる。ちりっと小さな痛みと甘い疼きに堪えきれず吐息が漏れる。
「ァ…」
性急にスラックスのベルトを緩められ、引き抜かれた。脱がされた衣服は全て後部座席に無造作に放っているらしい。
首筋から胸元にかけて唇が伝い落ち、ねっとりと熱く濡れた舌先が擽る。シャツの合間を縫い唇が胸の突起に触れる。軽く口付けられ、更に舌で押し潰される。
「ぅ、ん…やぁ…」
突起がぷくりと勃ち上がるのが自分でもわかった。男でありながら其処に快楽を感じると言うのは非常に羞恥心を駆られる。
胸元への愛撫に意識を奪われているうちに下肢を覆うスラックスも下着も靴も、全てが取り払われ素肌をあられもなく晒していた。
「おい。」
「ん、…?」
俺の胸元に顔を埋めていたイザークの呼び声に生理的な涙で濡れているだろう瞳を向ける。
すると顔を上げていたイザークと視線が絡んだ。
「口を開け。」
懸命に声を抑えようと閉ざしていた唇を強引に割り入り、咥内にすらりと細く長い綺麗なイザークの指が侵入する。
「ふぁ、っ!」
驚きに高い声が漏れた。絡んだ視線の先でイザークがすっと目を細め笑った。
咥内を擽る様に蠢く2本の指に大人しくされるがまま、時折舌を絡めた。息苦しさとキスをしている時のような快感が生まれる。
「ン…ふ、ぅ…」
「いい子だ。」
逆の手が剥き出しの下肢に触れる。太腿を指先でつっとなぞったかと思うと、内股を掌で撫で上げられる。足先が引き攣り、咥内の指を危うく噛みかけた。堪える為にシャツの端を握り締める。
「ぅ、んんっ…!」
非難する様に声を上げ、睨んだが全く効果はない。
更に下肢への刺激はエスカレートし、既に勃ち上がりきっている自身に触れるか触れないかぎりぎりを指先が伝う。
耐え切れず噛み締めそうになった指がするりと咥内から逃げ去る。
悪戯を繰り返していた手が片脚を持ち上げ、肩に担ぎ上げる。おそらくイザークの眼前にはひくつくいやらしい俺の窄まりが晒されていることだろう。思わず羞恥に唇を噛み締める。
「馬鹿者。力を抜け。」
噛み締めた唇にイザークの唇が宥めるように軽く触れる。
淡い口付けに息を吐いた瞬間、唾液で濡れそぼった指が蕾を押し開き侵入する。入り口を解すようにくにくにと刺激する指先。時々俺自身から溢れ出す先走りを掬い取り、蕾へ塗り込められた。そうやって徐々に奥へと進んで行く。
「あああっ!」
内壁を擦り広げる指先が意図的に俺の弱点を突いた。咽喉を逸らし抑えきれない悲鳴のような声があがる。
始めこそきつく指を締め付けていたが先を知る蕾はあっと言う間にイザークによって開花させられ、求めるようなひくつきに代わっていた。
頭を振り乱し喘ぎながら、必死にイザークへ手を伸ばす。その意図を汲み取ってか、奥まで飲み込んでいた指を引き抜かれた。
荒い呼吸を繰り返しながら、次に来る衝撃を待つ。が、それはいつまで経っても訪れることがなく、反対にイザークは身を起こし離れてしまった。
襲われた大きな快楽の波濤にすっかり俺は流されてしまっていると言うのに。
「イザーク、…」
無意識に強請る声が名を呼ぶ。
「そう焦るな。流石に動き辛いんだ。」
その台詞に此処が海辺に駐車された車の中だと言うことを思い出し、顔が赤くなる。
イザークに抱き起こされ、運転席に一旦身を置かれた。その間に座席の背凭れを適当なくらい起こし、イザークが俺に代わって其処に腰を沈める。それから再び助手席のイザークの元へと抱き寄せられる。俺も自ら腕を伸ばし、イザークに抱きついた。
どちらからともなく、唇を重ね合う。深い口付けを交わしながら、イザークが己の逞しい雄を取り出し視線をよこした。

――出来るだろう?

無言の促しに戸惑いながら、唇を離す。
僅かに逡巡したが、流される身体に躊躇いも解かされていく。俺は向かい合わせにイザークの膝を跨ぐ。イザークが俺の腰に手を添え手伝ってくれるのに従い、蕾に先端を添えた。
深く息を吐きながら、ゆっくりと腰を下ろす。それに合わせ蕾にイザークの雄が割って入る。
「あ、あ…ッふ――」
「くっ…」
何度交わり合ってもこの最初の圧迫感に慣れることはない。全てが収まる頃には身体が震えてしまい、動くことが出来なくなった。暫くの間、じっと二人で抱き合い中が馴染むのを待つ。
徐々に呼吸も落ち着き、内壁が求めるようになると物足りなさを覚える。
「ン……」
「自分で動けよ。」
強請るように向けた視線はその一言であっさりとかわされる。
疼く一方の内部に堪らず腰が揺らぐ。
「んっ…ふぅ、――ぁ…」
ゆらゆらと揺らぐ程度だった腰が少しずつ大胆な動きに変わっていく。
前後に擦り付けるようにして腰を振り、時に浮かし半ばまで雄が抜けると腰を再び落とし根元まで飲み込む。
「あ、あっ…ンっ…や、…ぁあ――」
律動のペースも上がり、忙しない息遣いといやらしい水音が車内に響いた。
けれども、一人で動くには限界があって、もっと強烈な快楽を知る身体は再び物足りないと訴える。
奥から湧き起こる疼きは腰を上下するだけでは満たすことが出来ない。焦れて涙が溢れ出した。
「イザー、クっ…もう、むり…っ」
今の今まで俺だけに動かせて傍観を決め込んでいたイザークに必死にしがみついた。
「そんなに泣くな。」
ぼろぼろと零れる涙をイザークが唇で掬い取ってくれる。その優しい仕草に溢れる涙が止まらない。
すんと鼻を啜り、イザークの胸に額を押し付けて首を振る。
「仕方がないな。」
イザークの腕が背中と腰に添えられた。
直後ずん、っと下から強く腰を突き上げられ、突然の強烈な快楽が襲い来る。
「あああっ、…ん、ふ…――ぁっ…」
先程とは比べ物にならない快楽が全身を一気に駆け抜けた。
自分で動いていた時よりもギリギリまで雄を抜き取られ、去り行く熱を欲するように中がひくつき締まるのが自分でもわかった。かと思うと一気に蕾を割り、貫かれる衝撃に目の前が真っ白になる。
それを何度も何度も繰り返され雄が内壁を擦りあげ、まだ開かされていない奥深い場所まで届くようだ。
抜き取られかけた雄の上にまた身体を落とされ、深くまで埋め込まれていく。そうして全てが収まると今度は内壁を擦り上げる様に腰を揺さぶられた。
不意に雄の先端が強く俺のもっとも弱い場所を突く。
「ひ、ぁあああっ…!」
快楽に悲鳴を上げ仰け反る身体をイザークの腕に抱きとめられた。引き寄せられるままに俺はイザークの首に腕を回ししがみつく。俺はシャツ一枚を引っ掛けるようにしているだけなのに、イザークは上着を脱ぎスラックスの前を寛げただけで服をしっかり着込んでいることに少し不満を覚えた。
けれども、繰り返される弱点への突き上げにそんなことはすぐに吹き飛んでしまう。
「あ、ああっ…く、はっ…!」
其処ばかりを狙い済ましたように突くものだから、俺は壊れたみたいに身体をがくがく震わせ唇の端から顎へ伝う唾液を拭うことも出来ない。
押し寄せる快楽は波濤を通り越し、まるで津波。
内壁がきゅうっと雄を締め付け、最後を促す。限界が迫り来ている証拠だ。
「ッ、…」
イザークが息を詰め、腰に回していた手を俺の雄に添える。急所を他人に掴まれる恐怖と快感が背筋を駆け抜けた。
その手が俺の雄を扱く。溢れる液がイザークの手を濡らし、それを手助けする。
前後から水音が響き、快感が湧き起こった。
「ふっ、く…あふ、ぅ…」
イザークの雄がギリギリまで抜かれる。次の瞬間、前を扱く手に合わせ、奥深くを目指すイザークの雄に貫かれた。
途中でしこりを強く擦り上げられ、先端に爪を立てられる。
「ん、あああああっ!!」
「くっ、ぅ…!」
絶え切れず俺は悲鳴と共に達し、イザークの手に白濁の液を吐き出す。
イザークの雄もまた俺の中で弾け、熱い飛沫を内壁に叩き付けた。
二人分の荒い呼吸が車内に満ちる。



息が落ち着いてくるとイザークが濡れた手で俺自身を再び握った。
「ぁあっ…?」
余韻に震える身体にそれは過ぎた快楽でびくんと大きく震えが起き、思わず中に埋め込まれたままのイザークを締め付けてしまった。ぐっとそれが力を取り戻すのを感じる。
「まだ日は昇らないからな。覚悟しろよ?」
にやりと意地悪げに口角を上げたイザークの言葉に俺は口元を引き攣らせる。
「え、嘘…っ、ああああっ!?」
再度繰り返される激しい突き上げに俺は更に溺れさせられていくのだった。










――きらきら、煌めく白銀色の髪

――ゆらゆら、揺らめく情欲色の瞳

――ざわざわ、ざわめく俺の胸



引いては寄せる漣の如き口付けに身を浚われ…

幾つもの波濤の如き愛撫に襲われ…

いつの間にか身体は沖へ流されるように深みへ…



きっと其処は快楽の灘

――後は貴方に溺れるだけ。










肌寒い風がさっきまで熱く絡み合い火照った身体には心地良かった。
海の向こうの空がほんのり明るく見える。
すっかり足腰が立たなくなってしまった俺はイザークに所謂、お姫様抱っこをされ外に出た。
車のボンネットに腰を下ろさせられたが、寒さに傍らのイザークに抱きつく。
イザークは何も言わずに小さく微笑んで俺の身体を抱きしめていてくれた。
二人で海の彼方を見つめる。



太陽が、昇る――


 

 


表にある「黄昏の誓い」の続きです。
まあ、読まなくても差し障りはないですが。


テーマは車内ぷれい、でしたー。

そのテーマから始めは
車内→車→ドライブ→海→夕日
と考えたんですが、上手く纏まらなかった…(遠い目)


結果、表と裏に話を分けてしまいました。


しかし…
裏作品の書き方がすっかりわからなくなっていた。
修行しなおそう。


07.12月22日