腕―カイナ―
横へ払う様に繰り出された勢いの付いたナイフの切っ先をアスランは一歩片足を引くことで紙一重でかわす。
間を置かず、返る刃で切りつけてくるそれを己のナイフで弾くと、相手――イザークに隙が出来た。
そこを逃さず死角から蹴りを繰り出すがイザークが床を蹴って後ろへ距離を取る。
視線が絡むがそれも一瞬、次の瞬間にはイザークの持つ刃が向かってくる。アスランは身体を捻り、すれ違い様にナイフを繰り出す。
「はっ!」
キンっと研ぎ澄ました音を立てそのナイフが弾かれた。どうやら引き戻すナイフで防がれたらしい。
横から突き出された拳を片手でいなしながら、アスランが足掛けを仕掛けるがあっさりと避けられた。
上段から迫るナイフをアスランは同じくナイフで受け流し、鳩尾にむけ拳を繰り出す。これは半身になり身体を引いたイザークに避けられる。
ナイフが擦れて耳障りな音を立てたが、構う暇も無く突き出されたナイフをアスランは体勢を低くし避ける。しかし、切っ先が藍の髪先を僅かに掠めた。続けて胸元へと向けられたイザークの拳を片腕で弾く。
アスランは代わりに低い体勢のまま下段からナイフを振り上げると、反射的に退いたイザークによって避けられた。
退き様に蹴りが繰り出されたが、腕を交差させ受け止める。
だが、それによって低い体勢のまま両手が塞がり、身動きの取り難い状況にアスランは不利を覚え、ナイフを牽制代わりに振るいそのまま後へ下がり今一度ナイフを構えなおす。
しかし、そう簡単にはいかない。構えなおす隙をつくようにイザークが繰り出したナイフをギリギリ受け止め払い落とすと、鳩尾を狙う膝が見え咄嗟に身を捻り避ける。
「ッ…」
アスランの体勢が崩れた。大きく出来た隙をイザークが見逃してくれるはずも無く、再度下段からナイフが振り上げられる。
避けられないと踏み、真っ向から受け止めるが勢いが付いたそれは存外重くナイフを持つ手に衝撃が走る。それでも、ナイフを飛ばされない様に力を込め受け流し、そのまま返す刃を相手の顔目掛けて繰り出す。
避けられはしたものの、今度はイザークの体勢が仰け反る形になり崩れる。アスランは間を置かずに拳を繰り出す。
「ちっ…」
それを反対の腕で弾いたイザークから舌打ちが聞こえ、繰り出された蹴りをアスランが避けるとその隙をついてイザークは大きく後ろへ退く。
一瞬の後、アスランはイザークを追う様に距離を詰め、ナイフを横に一閃させる。イザークが身を捻りそれを避け、返す刃に備えナイフを構えても構わず、アスランはそのまま下から上へとナイフを振り上げる。
高質の音を立てながら金属の刃がぶつかり合う。アスランはイザークのナイフを横へ振り払うように受け流し、首筋目掛け刃の切っ先を下ろす。ナイフを払われ対応が遅れたイザークは反対の腕でガードをし、アスランの手首を受け止め押し返す。
反撃するようにイザークが下からアスランの首筋に刃を向けるがアスランのナイフが上からそれを叩き落すように振り下ろした。重力と振り下ろす反動がかかった重いナイフとぶつかり、振り上げる形であったこともありイザークが手からナイフを床に取り落とす。
「くっ…」
イザークは小さく呻きを漏らし、頭上に腕を構え防御を取る。
このまま勝敗を決めてしまいたいアスランはその防御を蹴りで崩そうと片足を構えたその瞬間だった。
「うわぁっ!?」
アスランがイザークの落としたナイフの柄を誤って踏んでしまい、足が滑った。
接近戦だった為上手くバランスを取りきれずにイザークを押し倒すように二人揃って倒れこむ。
「アスラン!」
「イザーク!」
外野で二人の対戦を見守っていた仲間達が声をあげる。
咄嗟に受け止めようとしてくれたのだろう。イザークに庇われる形になったアスラン自身は然程衝撃がなかった。
だが、イザークは二人分の衝撃を受けることになったであろう。
「いっ、た…」
呻きを漏らしながら上体を起こすイザークに慌てて倒れこんだ身を起こす。
「イザーク、ごめん…」
短気な彼のことだ。怒鳴り声を覚悟していたのだが、意外にもイザークは眉を顰め鋭い瞳で一瞥をよこすだけだった。
返答のないイザークに不安が過ぎり大丈夫かと訊ね様と唇を開く。
「大丈夫ですか?」
が、脇から別の声に問われ、そちらを見上げることとなった。
声を掛けてきたのはいつの間にか駆け寄ってきて居たニコルだった。
他の二人も床に重なるように座りこんだままのアスランとイザークを見下ろすように傍らに立っている。
「どっか怪我した?」
ラスティが軽いながらも何処か心配げな調子で訊ねる。
「あ、いや…俺は何処も。」
「そ、ならいいけど…イザークは大丈夫か?」
そう言いながら差し出されたラスティの手にアスランはありがとうと答え、手を重ねて起き上がる。
「ああ――大丈夫だ。」
アスランが立ったことで漸くイザークも身体をきちんと起こすことが出来た。
咄嗟に受身を取ったとはいえ結構強く背中を打っている。それが痛んだが、問題はない。いつもよりは鈍い動作で立ち上がる。
そういえば、アスランは持っていたナイフを咄嗟に手放していたことに気が付く。
イザークを振り返ってみると傍らにしゃがみ込んだディアッカがイザークとアスラン、二人のナイフを拾ってくれていた。
「あ、ありがとう…ディアッカ。」
「あ?ああ、別にいいって。」
ディアッカはナイフをケースに収めながら笑って答える。
このナイフは訓練用のもので刃が潰してある。それでも突き立てる等すれば怪我はするが、ナイフ戦の訓練の際は安全の為
にこれを使う。
アカデミーの訓練場に授業後にトップ5が揃っているのにはちょっとしたわけがあった。
午前の授業で白兵戦があった。いつもの如くアスランとイザークが対戦を組まれたのだが、授業内で決着が付かなかったのだ。
結果、アスランにイザークが授業後の勝負を持ちかけ、面白がったラスティと心配したニコル、イザークの怒りを恐れたディアッカが参加することとなった。参加と言っても外野で審判をしていただけなのだが。
「今日はこの辺で終わりにしましょう。そろそろ、時間ですし…」
「だね。」
ニコルの言葉にラスティが頷く。
いつもなら決着がついていない、等と言い出すイザークだったが流石に先程の衝撃は軽くなかったらしく大人しかった。
アスランもディアッカも勿論異論は無い。
「じゃ、シャワー浴びて食堂行こーぜ。汗流したーい。」
んーっと言って伸びをするラスティに呆れたようにイザークが言う。
「貴様は見ていただけだろうが。」
「あ、イザークにしては鋭いツッコミ〜。」
「喧しいわ!」
5人は笑いながら揃って訓練場を後にした。
シャワールームは授業から時間がずれている事もあって他の生徒は居なかった。
5人はそれぞれブースに入りシャワーを浴びる。
アスランが終わってブースを出ると既に浴び終わっていたニコルとラスティの姿があった。
二人は談笑しながらアスランたちが出るのを待っているようだった。
ニコルは大体身支度を整え終えていたが、ラスティの方は上半身はアンダーのままで頭をがしがしと拭いている。
アスランもスラックスまではきっちりと着込んだが、まだ暑さを覚えるので上はアンダー姿のまま濡れた髪を拭く。
アスランから僅かに遅れてディアッカが姿を見せ、最後にイザークがブースを出た。
ちらりとイザークとディアッカを見遣ると二人ともスラックス姿で上半身はアンダーも着ていなかった。
アスランの隣に今回偶々イザークが並んでいる。
切り揃えられた銀色の髪から雫が滴り、意外にもがっしりとした肩に落ち伝う。
イザークはタオルを首にかけそれを拭う。
ディアッカは上背もあり逞しい身体をしていることは予想出来たが、そのディアッカと並んでも見劣りしない程度にイザークもしっかりとした身体つきだった。きちんと鍛えられ均整の取れた筋肉が綺麗な線を描く。
ディアッカとイザークが何か話をしているようだったが、アスランはその姿に気を取られて内容まではわからなかった。
いつの間にかじっと見つめていたアスランが不意に爆弾を投下した。
「イザークって着痩せするタイプだよな。」
その場に居た全員が一瞬沈黙し、硬直する。
「貴様、それは俺が太っているとでも言いたいのか!?」
一番初めに反応を示したのは言われた当人であるイザークだった。
ディアッカへ向けていた顔をアスランに向け、盛大に眉を顰めてみせる。
「ち、違う!そうじゃなくて…」
「ではなんだ?」
慌てて否定するアスランを睨みながら問いかける。
「いや…服着ているときはイザークって線が細いし華奢に見えるけど、実際は意外に逞しいんだなって。」
そう言ってまだ半裸のままだったイザークをじっと見つめる。
それに倣ってか他の3人までも視線をイザークへ向けてくる。
4人にじっと見つめられ迷惑そうに眉間に皺を寄せ、イザークは無言でアンダーを着てしまった。
アスランは少し残念に思いながらそれを見ていた。
「どーったの?急に…」
止まってしまった支度の手を再開させながらラスティが訊ねる。
「さっき、転んだ時に思ったんだ。」
しっかりした胸板に抱きとめられる形で倒れこんだことを思い出し、僅かにアスランの頬に朱が乗る。
「鍛えているんだ。当たり前だろうが。」
ぼそりと着替えを進めるイザークが返すのにアスランは首を傾げ、自分の腕を見遣る。
「そうかな…俺なんかは鍛えてもあんまり筋肉がつかないけど…」
「体質ではないですか?僕も筋肉、つきにくいですよ?」
ニコルがほらと言い、袖を捲くって見せた腕は白くほっそりしていた。
「かな?…だから、イザークが羨ましいなって。」
言いながら何度目になるか向けられる翠の瞳にイザークは顔を背ける。
それをイザークの隣で眺めていたディアッカが意味深に笑みを浮かべ、茶化す口調で口を開いた。
「アスランってさ、意外にイザークのこと好きだよなー。」
一瞬驚いたような表情を見せたアスランだったが、次には綺麗に微笑み
「うん、好きだよ。」
と言ってのけた。
思わぬ反撃に一同は再び言葉を失う。
そのなんとも言えない間に、流石のアスランも自分の言ったことを理解し真っ赤な顔で口元を覆う。
「あ、いや…あの…そ、そういう意味じゃ――」
「アスラーーン!!貴様ーーーッ!!」
照れと羞恥と、言葉を否定された怒りでか顔を真っ赤にしたイザークの怒鳴り声がシャワールーム内に響き渡った。
この後、イザークの行き場の無い思いは怒りに変換され、ディアッカへと向けられました……ご愁傷様です。
今回のテーマは「イザークの逞しさにときめくアスラン!?」
サブテーマに「戦闘描写を頑張ってみようv」ってのがありました。
どちらもまだまだ修行が必要なようです…
とりあえず、このアスランは天然らしい。
07.11月13日