8.「絶対に許さない」
 ―ハボック×ロイ・エドワード×ロイ―

ある日の午後、穏やかな風が開かれた窓から吹き込む東方司令部司令官執務室。
俺――ジャン・ハボックは盛大なため息を漏らしていた。
原因は言うまでもなく、様子を見に来てみればソファに横になり堂々とサボり…もとい仮眠を取っている俺の上官、ロイ・マスタング大佐にある。
考えてもみてくれ。
こんな天気のいい日に俺たちはオフィスに詰めてかったるい書類の処理に励んでいるってのに肝心の大佐はのんきにお昼寝だ。
そもそも俺が処理してる書類の半分以上はこの人がサボったせいで俺に回ってきたものだったりする。
大人しく執務室にいると思ったら寝てるし…
居ても居なくてもサボっていることにかわりないんだから参った。
中尉がいればこんなことにはならないんだろうが…
自然と何度目か判らないため息をつく。
と、その時突然に俺の背後に位置していたドアが勢い良く開かれた。
俺は来訪者を視界に収めるために後ろを振り返る。
勿論、ノックもなしにこの東方司令部司令官の執務室に飛び込んでくるようなやつは俺の知る限りは一人しかいないのだが。
「あ、少尉。久しぶり。大佐は?」
案の定、部屋へとやって来たのは赤いコートを身に纏った小さな少年、鋼の錬金術師エドワード・エルリックだった。
「よ、大将。久しぶりっすね。その割にはあんま変わってねぇようだけど。」
暗に身長が伸びていないことを指し示す言葉を俺はわざと含める。
過敏に反応するエドワードが面白いからだ。
「うるせぇ、誰がドチビのまんま成長期終わったって?」
ぎろりと睨み付けまくしたてるエドワードに俺は笑いながらも宥めるように言う。
これ以上刺激すると錬金術で暴れかねない。
程ほどのところでからかいは止めておくべきだろう。
「誰もそんなこと言ってないだろ。そんなことより大将は大佐に用があったんしょ?」
「あ、ああ…そうだった。で?」
その肝心の大佐はどこだといったエドワードに俺はソファを指さし、答える。
「見ての通りっスね。」
エドワードの視線がソファで惰眠を貪る大佐へ向けられる。
「なんだよ、またサボりか…しょーがねぇ奴だなー…」
ため息混じりでそう言うエドワードが言葉とは裏腹に愉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。
俺の隣をすり抜け大佐へ歩み寄るエドワードに俺は不思議に思いつつ目で追う。
大将?と声を掛けてもこちらを振り返る様子はなく、ただ悪戯を企む表情が窺えた。
「んじゃ、オレが起こしてやるよ。」
そう言ってエドワードが取った行動に俺は呆気に取られ、口をぽかんと開き固まってしまった。
エドワードは床に膝をつき大佐の顔を覗き込んだと思うと、そのまま薄く色づく大佐の唇に自分のそれを重ねたのだ。
更に角度を変えると薄っすらと開かれた大佐の唇を割り、舌を滑り込ませる。
くちゅくちゅと微かに水音が耳に届き、エドワードが大佐の口腔を貪っているのが判る。
それには大佐だって目を覚ました。
そして、すぐさまエドワードの胸板を押し、抵抗をする。
だが、大佐は与えられる口付けに酔い、力が弱まっているのだろう。
エドワードを突き放す事が出来ず、結局いいように咥内を蹂躙されてしまっていた。
エドワードがようやく大佐の唇を解放する。
かなり激しく深い口付けだったのだろう。二人とも息を整えようと暫し荒い呼吸が室内に満ちた。
すっかり目を覚まし、顔を真っ赤に染めエドワードを怒鳴りつけ始める大佐。
紅潮した頬の理由は怒りからと言うよりも酸欠と羞恥からではないかと思えた。
目の前で繰り広げられるエドワードと大佐の様子を蚊帳の外状態で呆然と眺めているしかなかった俺はその声にようやく意識を取り戻す。
実を言うと俺はずっと大佐に思いを寄せていた。
そんな好きな相手が他の男に目の前でキスをされたのだ。
沸々と嫉妬心と怒りが湧き起こる。
俺が口を挟もうかと思った時、不意にエドワードがチラリと俺を一瞥した。
一瞬だけぶつかった金色の瞳。
そこには明らかに子供らしくない、してやったりといった笑みの色が浮かんでいた。
このくそガキ――

「絶対に許さない」

俺が心の中で叫んだのも無理はないだろう…

 


エドロイエドにしようかと思っていたこのお題、シリアスになりそうだったのでハボロイに変更したんです。
ところが、いざ出来てみると…――
ごめんね、ハボック…
私のところでは君は幸せになれないようだ…(ホロリ)

珍しく一人称です。

携帯でちまちま打ったんです、これも。

そして、実を言うと書いていてとっても楽しかったです……

05.06月19日