5.「何故だか知っていますか?」
 ―ハボック×ロイ―

「大佐ー…やっとみつけたっすよ…」
ようやく見つけた相手は暢気に街のパン屋のお嬢さんとお話をしていた。
銜えていた煙草を指で挟むこみ、唇から離す。
それから相手へ視線を送り、その姿に深い溜め息が零れ落ちる。
昼前に少し外回りをしてくるといって出て行ったこの上司は昼を過ぎても戻ってこなかった。
それから更に3時間を数えてもまだ戻らない。
いい加減に連れ戻してこようと言いだしたのは誰だったか。
ほぼ、その場にいた全員の人間が言っていた気がする。
手分けをして何人かが上官の捜索に出た。
そして、その上官を見つけたのはジャン・ハボックだった。
「何だ、少尉。どうかしたか?」
けろりとした表情で聞き返してくる相手にハボックは思わず肩を落とす。
自覚なしか、と半目状態で自分よりも幾分背の低い上司を見下ろす。
「ですから、仕事に戻ってくださいよ…」
頼むから早く戻ってくれ、ハボックは心の奥底からそう願っていた。
それなのにこの上司ときたら、
「何を言っている。市民との交流も立派な仕事だぞ。」
妙に胸を張りながら言い、『ねえ、お嬢さん?』などとパン屋のお嬢さんににこやかに話し掛けている。
このまま見捨てて行きたいのは山々だが、生憎自分はまだ死にたくない。
「大佐…今あんたの捜索隊が出てるんすけど…」
僅かに眉を顰めて、まだ何かあるのかと言いたげな表情でハボックを見てくる相手に無表情を保つ。
此処で負けては本当に命が危うい。
一息大きく空気を肺へと取り込み、作り笑顔を浮かべ、
「――何故だか知っていますか?」
「何が言いたいのかさっぱり判らないのだが?」
はっきり言え、とばかりに腕組をしながらハボックを見上げてくる漆黒の瞳。
この上司は鋭いのか鈍いのか…
軍人としての聡明さが全くないその様に苦笑のような笑みを浮かべる。
「大佐、中尉がライフル持ち出しましたよ…?」
こう言えば全て察してくれるのだろう。
一瞬でその相貌が青くなっていくのが判った。
「先にそれを言わんかっ!」
八つ当たり気味にハボックへ怒鳴りつけてくる。
それから愛想の良さそうな…しかし引きつり気味の笑みをパン屋のお嬢さんに向けて、簡単な別れの挨拶をする。
ハボック自身もパン屋のお嬢さんに笑顔と会釈を送り、煙草を銜えなおすと、急ぎ足で司令部へと向かう上官の後を追う。
こうしていつも抜け出し、中尉に大目玉を食らう駄目な上官。
しかし、その裏に隠されている才能と強い焔を自分は知っている。
だから何処までも付いていくのだ。

 


すみません…完璧勢いです。
このお題は難しかった。
「何故だかわかっていますか?」なら書きやすいんですが、「知っていますか?」ですからね。
この使い方もかなりかなり無理やりかもしれません。
大目に見てください…