抑えきれない嫌悪

美しい…
キンブリーはそう思った。
全てを焦土と化していく真っ赤な焔。
何もかもを無へ返すそれは作り出した者の潔癖さを映す様だ。
己の打ち上げる花火よりもそれは狂気を生むように思え、気分が高揚する。
燃え盛る焔が何もかも飲み込み奪い尽す一連の様子を高台からキンブリーはうっとりと眺めていた。
ひゅっと音が聞こえたように思えた。
実際には何の音もなかったのだが、キンブリーの感覚が何かを捉える。
一瞬だった。
いつまでも燃え続けると思えた焔が跡形もなく消え失せる。
熱気を孕んだ風が吹き、キンブリーの髪を揺らす。
赤く染まっていた眼前は今やただただ黒く染まった荒野が広がるのみ。
キンブリーは感嘆の息をつく。
ゆっくりとした足取りでその荒野に向かい行く。
惹かれるように瞳は真っ直ぐに目の前の光景に釘付けだった。
丘を下り終え周りを見回す。
視線を這わせ、捉えた一つの影に口許に笑みを張り付ける。
そちらへ一歩ずつ歩み寄ればその影が人であることが分かった。
その人物はキンブリーと同じく軍服を身に纏い、その上から暑いにも拘らず黒い外套を羽織っていた。
キンブリーは足音も気配も消してはいない。
気がついているだろうにその人物は振り返らなかった。
「すばらしい焔でしたよ。」
その青年、ロイへ拍手と共に賛辞を送る。
「それはどうも…」
が、返されたのはそっけない返答。
ロイはキンブリーに視線を向けることもなく、目の前の荒野を見つめている。
黒い砂を踏み、ロイが荒野へ足を踏み出す。
じゃりっと耳障りな音が聞こえた。
「どちらへ?」
「確認だ。」
何の、とは聞かない。
これは戦争――否、殲滅だ。
生き残りがいないか確認し、居なければ任務が完了になるのだ。
もっとも、あの業火だ。生き残りが居るとは思えないが…
ロイは重い気持ちを抱えながら黒い大地を踏みしめる。
己の足音以外に後ろからもう一つ足音がついてくるのが判った。
眉を顰め、ちらりと見遣る。
何かを言おうかと口を開くが、別について来て問題があるわけでもない。
ゆるく息を吐き、大して興味がないのかすぐに前に視線を戻す。


暫く歩みを進めると、燃え残った瓦礫があった。
石造りの何か建物だったらしい。
しっかりとした造りだったのだろう。
あちこち崩れ落ちてはいるものの、辛うじて原形を留めていた。
その瓦礫の影にチラリと動くものが見えた。
どうにか焔から逃れることの出来たらしい子供だろう。
唯一の残ったそれに身を潜めているようだ。
殺さなければならない。
分かっていたが震える子供へ向け、指を擦り合わせる気にはならなかった。
後ろに続いているキンブリーに悟られぬように気付かぬ振りをし、そのまま通り過ぎる。
いつの間にか詰めていた息を吐こうとした瞬間、背後で爆音が轟く。
慌てて振り返ると先程は残っていた瓦礫が跡形もなく吹き飛び、隠れていたはずの子供の姿も消えていた。
代わりに瓦礫があった側にキンブリーが立ち、微笑んでいた。
「なっ…――」
「此処に子供が居まして。貴方が気付いていらっしゃらない様だったので代わりに始末しておきましたよ。」
爆発で舞い上がった砂の中、キンブリーがにこりと微笑む。
ロイはぐっと込み上げるものを堪えるように無言で拳を握り締めた。
キンブリーはそんなロイに微笑を浮かべたまま歩み寄り、ずいと顔を近付ける。
「いけませんよ、見落としなんて…せっかくのすばらしい貴方の焔が台無しになってしまう。」
「何を、馬鹿なことを…」
ロイは嫌悪感を露に吐き捨てる。
それにくすりと笑いを漏らしながらキンブリーは更に言い募る。
「貴方の焔は全てを無に帰す。一つでも残ってはいけないんですよ…」
「戯言を…」
暗にもう聞きたくないと目を逸らすロイにキンブリーは鋭い剣をつきつける。
「ああ、それとも…見落としたのではなく見逃したのですか?」
ロイは黒曜石のごとき瞳が見開かれる。
美しく澄んだ宝石にキンブリーの姿が映っていた。

何を驚くのか。
キンブリーはそんなロイを見ながら思った。
ロイもキンブリーも軍人だ。
あの子供の存在に気付かない訳がないだろう。
まさか、キンブリーが子供に気付かないと思ったのか…
まさか、ロイが見逃した事に気付かないとでも思ったのか…
キンブリーは声をあげて笑いたくなった。
この青年はなんと愚かなのだろうか。
多くの命を奪いながら、たった一つの命を惜しむなんて――

「今更でしょう?貴方は数えきれない程のものを奪ってきた。なのに貴方はあんな小さなもの一つを助けようと言うので?」
キンブリーは酷薄な笑みを湛え、その瞳でロイを束縛する。
「貴方も私も所詮人間兵器なんですよ。」
その言葉に心臓を一突きにされたような痛みがロイを貫く。
だが、ロイにはそれに反論することもキンブリーのしたことを咎める権利もない。
彼の言葉は正しいのだ。

奥底から込み上げてくる感情。
それは抑えきれない殺戮への嫌悪…
だが、彼に対してではない。
激しいまでの嫌悪は自分自身に向けてのもの。
それは抑えきれない自己への嫌悪…

嫌悪と苦痛に歪むロイの表情は今にも泣き出しそうにも見える。
キンブリーはその相貌を愚かしくそれでいて綺麗だと思った。
彼の焔が美しいのは自分にはない感情を持つ彼が生むものだからこそだろう。

 


移転前のサイトでのキリ番・3333のリクエストでキンブリー+ロイで「抑えきれない嫌悪」でした。
クュルエ様のみお持ち帰り可です。
こんな駄文で申し訳ありませんけど…(土下座)

ちなみにこれも夜中にぽちぽちと携帯で打っていました。
最近の執筆は携帯でよくやります…
内容的にはお題のキンブリー+ロイと被らないようにしてみました。
なので、お互いに対する嫌悪にはしないようにしました。
キンブリーが示唆する言葉とロイの自己嫌悪、となっていると…
私は二人が似ていると思います。けれども、正反対なのだと…
鏡というか表裏というか…

この二人の遣り取り、書くのが結構好きだったりします。

05.07月29日